アートに触れる

文学のまち城崎温泉を知る、愉しむ【城崎文芸館】

カランコロンと軽やかに下駄を鳴らしながら、浴衣姿でまち歩きをする人々が行き交う城崎温泉。「外湯巡り発祥の地」として知られる城崎温泉に「歴史と文学といで湯のまち」というもうひとつのキャッチコピーが付いているのはご存知ですか?温泉街のちょうど真ん中あたり、路地を一本入った文芸館通りに立つ「城崎文芸館」。平成26年(2016)、開館20周年を記念して展示が大幅にリニューアルされ、城崎温泉の歴史や文学との関わりをより深く愉しく親しめる施設になっています。

志賀直哉をはじめとする、数多くの文人・墨客に愛された城崎温泉

―― 山の手線の電車に跳ね飛ばされてけがをした、その後養生に、一人で但馬の城の崎温泉へ出かけた。

この一文ではじまる小説『城の崎にて』。 “小説の神様”と呼ばれる作家・志賀直哉の代表作のひとつとして、大正6年(1917)の発表以来今も読み継がれる名作は、大正2年(1913)に東京で山手線に跳ねられて怪我をした志賀直哉が、湯治のために城崎温泉を訪れた約3週間の滞在中に小さな生きものの命に見た死生感を記した短編小説です。
志賀直哉はその後も生涯に十数回、家族や武者小路実篤をはじめとする白樺派の仲間と城崎温泉を訪れ、名作『暗夜行路』にも城崎温泉が描かれています。また、志賀直哉や白樺派の文豪の他にも、島崎藤村や与謝野鉄幹・晶子夫妻、白鳥省吾、司馬遼太郎など数々の文人・墨客が訪れていることから、いつしか城崎温泉は「歴史と文学といで湯のまち」として知られるようになったのです。

インスタレーションアートを取り入れた展示で歴史と文学に親しむ

城崎温泉ゆかりの作家に関する展示を行う文学館として平成8年(1996)に開館した「城崎文芸館」。開館20年目を迎えた平成28年(2016)に、ブックディレクタ―・幅 允孝さんの監修の下で展示内容が大幅にリニューアルされました。城崎温泉の歴史や所縁ある文人・墨客の作品を紹介する「常設展」と、不定期に展示を変えて現代の作家や作品も紹介する「企画展」で構成されています。

エントランスをくぐるとぱっと目に入るのは大きな本のオブジェ。ライゾマティクス社が手がける映像インスタレーションで、オブジェに近付くとふわりふわりと湯気のように揺蕩う文字がさっと連なって城崎温泉にまつわる文学作品が表示され、訪れる人々を文学の世界へと誘います。

まずは「企画展」の展示室へ。城崎温泉を訪れた”過去の書き手たち”を紹介するだけでなく、”城崎と本に関する現在進行形”を伝える試みとして展示は不定期に更新されます。
「本と温泉」とは、平成25年(2013)の志賀直哉来湯100年を機に、次なる100年の温泉地文学を送り出すべく城崎温泉旅館経営研究会(通称 二世会)が立ち上げた出版レーベルのこと。志賀直哉をはじめさまざまな小説家や詩人、歌人、芸術家が訪れた文芸の温泉地として、これから100年先も読まれ続ける新しい本づくりを目指しています。これまでに万城目学湊かなえといった人気作家が城崎を舞台にした小説を書き下ろし、令和2年(2020)2月には絵本作家tupera tuperaが著者となり、4作品目となる『城崎ユノマトペ』をリリースしました。この企画展では、「本と温泉」の誕生のきっかけからこれまでを振りかえり、城崎温泉でしか買えない「地域限定本」の本づくりの裏側を紹介しています。

企画展示室から続く階段を2階に上がり、「常設展」の展示室へと進みます。貴重な初版本や書簡、直筆原稿などを通して、志賀直哉と白樺派の文豪たちを中心とした城崎温泉を訪れた文人・墨客とまちとの関わりを紹介しています。展示室にはパンの食玩や切り株など「文学」とは一見関係なさそうなものや、立体的に彫られた文字が並び、歴史や文学にまつわるエピソードを「読ませること」以外の表現方法を用いて展示されています。また「城崎温泉の記憶」コーナーでは、城崎温泉の起源から入浴券の変遷、北但大震災からの復興など、様々な資料を通して温泉地そのものの歩みを紹介しています。

城崎温泉をより深く愉しむために知っておきたいコトがいっぱい!

「城崎文芸館」は城崎温泉の歴史だけでなく、現在へと受け継がれる城崎温泉の魅力を知ることができ、1300年以上続くまちの歩みを知ることは、旅の愉しさをより深めてくれます。展示を見る前と見た後では、目に前に広がる景色の解像度さえも変わるはず。文学や歴史好きでなくても、城崎温泉に着いたらまず訪れたいスポットのひとつです。

「アートの触れる」スポットの楽しみ方

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