アートに触れる

舞台芸術の滞在制作施設【城崎国際アートセンター】

城崎温泉の中に立つ「城崎国際アートセンター」は、平成26年(2014)に開館した舞台芸術に特化するアーティスト・イン・レジデンス施設です。アーティスト・イン・レジデンスとは、アーティストを一定期間地域に招聘し、芸術創造活動の環境を提供する事業のこと。「城崎国際アートセンター」には年に一度の公募で選ばれたアーティストたちが、最短3日から最長3ヵ月の間滞在し、実際にここで作られた作品が国内だけでなく世界中で発表されています。

ホール Photo: Madoka Nishiyama
レジデンス Photo: Madoka Nishiyama
城崎小学校でのアーティストによる倒立ワークショップの様子

一方的に「観る」だけでなく「参加」できるワークショップも

「城崎国際アートセンター」は滞在のための宿泊施設だけでなく、スタジオや実際に公演ができるホールを備え、アーティストは滞在中に試演会やワークショップなどの地域交流プログラムを通して、地域の人が多様な芸術活動に触れられる機会を設けることを条件に24時間無料で施設の利用が可能です。劇場としての機能は備えていますが、常に何かの上演や、観られる催しがあるわけではないため、観光や見学目的で突然訪れることはおススメしません。滞在中のアーティストが無料行う試演会やワークショップは公式WEBのイベントページから参加申し込みが可能で(イベントによっては定員有)、地元の人だけでなく観光客も参加できるのでイベントに合わせて訪ねましょう。上演形式のものだけでなくワークショップ形式のものもあり、作曲家と一緒に音楽を作ったり、町を一緒に散策したり。小学生がアーティストと一緒に逆立ちの練習をする、なんてワークショップも。自分が参加したワークショップが思わぬ形で作品に反映されることがあるのもおもしろいところです。

アーティストによる地域リサーチの様子

アーティストのリサーチによる地域文化の再発見

滞在中、積極的に外へ出てさまざまな場所で地域の人と交流し、歴史や伝統、風習などをリサーチするアーティストもいます。「城崎国際アートセンター」では、アーティストと地域を繋ぐ「地域連携ディレクター」「地域コーディネーター」という役割のスタッフがアーティストのリサーチ活動をサポート。ありきたりな観光資源だけではない、人が伝承することでしか受け継がれない無形の文化や、地元の人にとっては見慣れ・見過ごされて風化寸前だった、人々の日々の営みの中にある豊かな地域資源がアーティストの視点によって見直され、作品を通して地元の人が再認識できる機会が生まれています。複数年かけて地域と関わりながら展開する「コミュニティプログラム」で滞在するアーティストもいて、例えば「日本相撲聞芸術作曲家協議会(JACSHA|ジャクシャ)」さんは、豊岡市竹野町に古くから伝わる「竹野相撲甚句」や養父市奥米地の「ねってい相撲」など、兵庫県北部但馬地域に残る相撲文化を調査・研究。地元の子どもたちを対象に作曲ワークショップを開催するなどして、平成30年(2018)に「竹野相撲甚句ファンファーレゲエ」などの新作楽曲を作曲·発表し、令和2年(2020)にコンサートを開催しました。それは高齢化が進み後継者とともに口頭伝承が絶えかけていた「竹野相撲甚句」が、アーティストの活動によって甦った瞬間でした。

太田信吾/Hydroblast『最後の芸者たち』の稽古の様子

また、令和4年(2022)に映画監督で俳優の太田信吾/Hydroblastさんたちが行った城崎温泉でのリサーチでは、今も町内に暮らす元芸者の女性へ、かつて城崎温泉にあった芸者文化について取材。アーティスト自身が稽古を通して芸のてほどきを受けながら作品『最後の芸者たち』を制作し、「城崎国際アートセンター」での稽古場公開を経て、豊岡演劇祭2022の他、東京と大阪で上演されました。俳優のパフォーマンスを通して、城崎温泉に芸者がいた頃を知らない町の人も、その「かつて」の風景を見ることができたのは大変貴重な体験だったでしょう。他にも、アーティストのリサーチによって地域のさまざまな文化が再注目されています。「城崎国際アートセンター」がなければそのまま歴史の流れの中で失われてしまった貴重なモノやコトは数多くあり、「城崎国際アートセンター」が「芸術文化戦略の拠点」としてだけでなく「地域文化の開拓拠点」として、担う役割への期待とともに、地元の人々から高い関心を集めています。

温泉街を歩くアーティスト (C)igaki photo studio

「アートさん」と呼ばれ、住民にも親しまれるアーティストたち

数多くの観光客を日々受け入れる城崎温泉では、町の人にとって外から人が来るのは当たり前のこと。地元の商店で買い物をし、喫茶店でお茶をしたり外湯に入ったりと(ちなみに、アーティストは滞在中、外湯の入浴料が地元の人と同じ価格です)、暮らすように滞在するアーティストを特別視するようなことはなく、親しみ込めて「アートさん」と呼ぶ町の人もいます。二度、三度と滞在する「アートさん」には「おかえり~」「またきとんなるんか(またきているのね)」と声をかけ、アーティストが城崎での滞在を通して出会った地元の人が舞台芸術への造詣のあるなしに関わらず、まるで授業参観のような気分で試演会に訪れることも。開館から9年を経て、今では町に「アートさん」がいるのが城崎の日常で、ほぼ毎月試演会やワークショップがあるのもすっかり日常のことに。回覧板や防災無線から流れる市からのお知らせで知る城崎国際アートセンターでの催しは、地域の人にとって気軽にアートや文化に触れられる機会になっています。

WORKATION IN TOYOOKA @KIAC  Photo: Mitsuyuki Nakajima

新たに町へ加わった「働く」ための機能

令和4年(2022)4月、城崎国際アートセンターのエントランスホールにワーケーションスペース「WORKATION IN TOYOOKA @KIAC」が誕生しました。独立したワーキングデスク(11台)と、オンライン会議にも対応する空間としてワーキングルーム(個室/2室)があり、コンセントやフリーWi-Fiも完備。城崎温泉の観光や長期滞在時のリモートワークに利用が可能です。もちろん市民も利用でき、2022年度の夏休み・冬休み期間中には市内の学生を対象に自習スペースとして無料開放されました。また、滞在アーティストだった武本拓也さんは、ワーケーションスぺ―スを活用し1ヵ月半滞在。もともと、平日は会社員として働きながら終業後に毎晩上演を行う活動を5年間継続していた武本さんは、「城崎国際アートセンター」での滞在中も平日の日中はこのスペースでリモートワークをして、終業後に毎晩上演を行うスタイルを継続。ワーケーションスペースを活用することで、仕事を休むことなくアーティスト・イン・レジデンスでの滞在制作が可能になる好事例が示されました。「WORKATION IN TOYOOKA @KIAC」の誕生により、「まち全体がひとつの旅館」として町づくりを行ってきた城崎温泉の「泊まる」「食べる」「観る(遊ぶ)」「買う」といった町の機能に新しく「働く」が加わり、その滞在の幅がさらに広がりました。

WORKATION IN TOYOOKA @KIACでリモートワークする武本さん

<WORKATION IN TOYOOKA @KIAC>

(営業時間)9:00~17:00
(休館日)毎週火曜日、年末年始 ※火曜日が祝日の場合は翌日
※公演や地域交流プログラムなどイベント開催日は利用できない場合があります。
(使用料)1時間以内:500円、1時間を超える:1,000円(最大料金)
※個室利用は、上記料金に+200円×時間
(設備)デスク:11台/個室:2部屋/Wi-Fi/電源/テラス
(利用方法)電話またはWEBから事前予約が必要
TEL:0796-32-3888(城崎国際アートセンター/受付9~17時)
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