アートに触れる

大火を逃れた貴重な資料で歴史に触れる【温泉寺宝物館】

城崎温泉の開祖である道智上人によって、天平10年(738)に開創された温泉寺。ご本尊は大和(奈良)の長谷寺の観音像と同木同作の十一面観音立像で、温泉寺の山号・寺号は、天平10年(738)に聖武天皇より「城崎温泉の守護寺」として賜わったものという、由緒正しき山陰の古刹です。以来、城崎温泉とその入湯客を見守る温泉寺本堂の敷地内に、温泉寺の宝物を保管・展示する「温泉寺宝物館」があります。

学者も調査に訪れる、歴史の解明に欠かせない重要な資料も

大正14年(1925)、円山川河口付近を震源とするM6.8の北但大震災によって起きた火災により、城崎温泉は町全体が焼け野原になりました。その際、数多くの旅館、神社や寺院は建物ごと消失してしまいましたが、温泉寺は山の上にあったため大火を逃れ、今に受け継がれる古文書や文化財、町の歴史を記した貴重な資料などが「温泉寺宝物館」に展示されています。最も古いもので平安時代のものからあって、城崎温泉だけでなく但馬の歴史を紐解く貴重な資料を保存。歴史や考古学の関係の研究者が調査のために訪ねてくることもよくあるそうです。

豊岡市指定文化財・国指定重要文化財指定の貴重なコレクション

温泉寺が所蔵する文化財には、国指定重要文化財や豊岡市指定文化財に指定されているものが数多くあります。令和3年(2021)には、新たに6点が豊岡市指定文化財に登録されました。ひとつめは、境内にある多宝塔の本尊として祀られている「木造大日如来坐像」。全国的にも数少ない平安時代前期の仏像で、現在わかっているもののなかでは但馬で最古の大日如来像とされています(原則非公開)。二つ目は城崎温泉の成り立ちを記した最古の資料で、「万人講衆縁起」とともに16世紀に記されたものとされる「温泉寺縁起帳」、他にも室町時代に描かれた「絹本著色 尊勝曼荼羅画像」「絹本著色 尊勝曼荼羅画像」「絹本墨画淡彩 不動明王画像」の3点の絵画などが新たに指定され、「木造大日如来坐像」以外のものは「温泉寺宝物館」で観ることができます。普段は公開されていませんが、国指定重要文化財「絹本釈迦十六善神像図」は、鎌倉~室町時代の作。釈迦如来を中心に、般若経を護る四天王と十二神将が描かれていて、「絹本釈迦十六善神像図」そのものは数多くありますが「玄奘三蔵(三蔵法師)」が旅姿で馬を連れ、経巻を馬に背負わせた図柄のものは世界で唯一といわれ、大変貴重なものとされています。

温泉寺参拝後に立ち寄り、1300年に渡る悠久の歴史を実感

他にも、「温泉寺宝物館」には「すごい!」ものがいろいろ展示されています。例えば『文明4年版 声明集』は、9世紀のはじめに弘法大師が中国から伝え、宗派ごとに独自の発展を遂げた僧侶が唱える声楽(お経に節がついたもの)の楽譜で、文明4年(1472)に高野山で出版されたものとされています。ヨーロッパで最古の楽譜といわれるグレゴリアン聖歌の印刷楽譜が文明5年(1473)の出版であることから考察すると、この『文明4年版 声明集』は日本最古だけでなく世界最古の印刷された楽譜と考えられます。また、温泉寺・四所神社・弁財天社の山門や拝殿などの扁額の文字の原本となっている、「末代山」「円通閣」「四所大明神」「金嶋山」の御染筆は、後西天皇の皇女・宝鏡寺宮理豊内親王によって温泉寺に納められたもので、他にも天皇家ゆかりの揮毫が保管されています。

「温泉寺宝物館」をより深く愉しむ順路としては、まずは本堂を観覧した後に「温泉寺宝物館」を訪ねましょう。本堂の観覧時には温泉寺スタッフが一通り解説をしてくれるので、まずは本堂で温泉寺の歴史や成り立ちを知り、「温泉寺宝物館」を訪ねればよりその貴重さがわかるはずです。温泉寺、そして城崎温泉の1300年を越える悠久のロマンと歴史をぜひ体感してください。

「アートに触れる」スポットの楽しみ方

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