思いを形にするのに 欠かせなかった 「デザイン」と 「ネーミング」

紙のクーポンにこだわった意味

——世の中に出回っているクーポン類を見てみると、スマホを使ったデジタルクーポンが多数を占めてきましたが、豊岡旅幸券は紙で発行することを選びました。ここからは、デザインを担当したアートディレクターの小林さんにも参加していただきましょう。

宮垣

スタート当時は、ちょうどクーポン類が電子化されはじめた時期でしたが、「デジタルだと、基本的には自分しか使えない。紙はプレゼントできるよね」って話が出たんです。それで紙にしようってなった。

川角

「プレゼントする」ということを考えた時に、そうなるとデザインが大事だねという話が出てきたんです。名前だってこの時点ではまだ「豊岡旅行クーポン」。ここからツバメヤの小林さんにお願いしてみようか、となったんです。

——小林さんは、このオファーを受けてどう感じましたか?

小林

地域ブランドの開発に携わる業務は、いくつか経験があったのですが、クーポンのブランド開発は初めてでした。恥ずかしながら、それまで豊岡を訪れたことがなかったので、
「まず、街を肌で感じないことには始まらないな」と、さっそく豊岡を訪れました。その時まず感じたのは、想像していたよりも人々の活気がある街だな、ということ。
ひとことで言うなら「元気ローカル」とでも言いましょうか。

佐野

元気ローカル(笑)面白いですね。

豊岡の魅力を体現するために大切にしたこと

小林

もちろん全国で悩みのタネになっている高齢化や人口減の影響は、あちこちにあると思うのですが、街全体に、今までの歴史を大事にしながらも、協力して新しいことに取り組む文化を大切にしている意志を感じました。豊岡を積極的に選んでやってきた若者たちが営む、元気なお店があるのも魅力的ですよね。
一方で、自然も豊かで山も海も身近にある。そこに、演劇の新しい息吹が吹きこまれていたり、コウノトリもいたり。中心になるのは、認知度の高い城崎温泉かもしれないけど、コンパクトなエリアに多様な魅力が詰まっている。「いっぱいあって嬉しいね」っていうことは、大切にしないといけないなと思いました。そのときに、「旅行クーポンってただのジャンル名だから、コアになるネーミングがいるよね」という話をしました。

宮垣

そこで提案してもらったネーミングの中にあったのが、「豊岡旅幸」。幸せを運ぶ鳥コウノトリがいる街にぴったりだね。いいじゃん! ってみんなでなって。すぐに他のところで使っていないか調べてみると。意外とない。使えるぞ!とみんなで喜んだのを覚えています。

小林

もうひとつ。これは、旅行のクーポンっていう味気ない話じゃなくて、豊岡への招待状なんじゃないですか?という話もしたと思います。

佐野

購入した方が、誰かにプレゼントすることを想定して「紙のクーポンがいいね」と言っていた、私たちのイメージにも合致しました。「招待状」というキーワードを聞いたときに、「そうそう! そういうことだよね」って。

——券面には、豊岡を味わうストーリーがつづられていますね。

小林

旅のイメージを抱いてもらう媒体となるデザインってどんなんだろう?と考えて。さまざま案を練った果てに、いっそもう「文章だらけにしちゃえ」って。その案を受け入れていただきました。

川角

1,000円券と10,000円券で、異なる2つのストーリーを書いていただきました。それぞれの金額で味わえることがベースになっていますよね。

宮垣

単純な金券にしたくなかったから、とてもいいアイデアだと思いました。紙の種類にもこだわってくれています。なるほど、招待状がイマイチな紙だったら残念だよなあと。

小林

手触りって、紙だからこその要素です。ここは大切にしなければいけません。看板建築が並ぶ市内の文化的な雰囲気や、城崎温泉の穏やかな街並み。豊かな自然を味わう入り口としてふさわしい、穏やかながらも、ちょっと上品な手触りを感じるものに仕上げました。

川角

デザインがいいからだと思うんですけど、嬉しいことにプレゼントに使われるっていう方が結構いらっしゃるようなんです。多いのは、ご両親へのプレゼント。「ちょっと温泉行っといでよ」みたいにね。

宮垣

豊岡旅幸券を介して、そういう家族のコミュニケーションが生まれてるっていうのは良いよね。それこそ招待状としてご両親のお手元に届いて、そこから豊岡の体験が始まるわけで。私たちが「こういう物語がはじまるといいな」と想像していた、嬉しいカタチです。

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