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#006|豊岡を未来に結ぶ実直な米づくり

「コウノトリ育む農法」が運ぶ、
農と食の幸せな関係

いまや、豊岡にとってコウノトリの姿は日常の一部だ。しかし、一度いなくなってしまったコウノトリを豊岡に呼び戻すのに、相当な努力があったことは言うまでもない。

中でも大きな役割のひとつを果たしたのは、コウノトリの生育に適した農業環境の整備だ。

一部地区で、田んぼにアイガモを放ち、虫や草を食べてもらう「アイガモ農法」を取り入れるなどして、農薬に頼らない農業を始めたのは、1990年代。安全安心な米を収穫するととともに、コウノトリの餌となる生物を育んできたのだ。

やがて「コウノトリが住める環境は、人間にとっても健康的に暮らせる素晴らしい環境ではないか」という機運が高まり、当時実験的に推進されていた有機農法を体系化。コウノトリの餌となる生物を育む、農薬に頼らない強い米づくりを目指した農法が「コウノトリ育む農法」と命名された。

「以前から農薬に頼らない農業に興味があったので、この話を聞いた時には真っ先に手を挙げました。環境のことを考えたら、今こそ必要な取り組みだと思ったのです」。

そう語るのは、知見(ちみ)集落という地域の営農組合で組合長を担っている中西正博(なかにしまさひろ)さん。農家の高齢化により地域に離農者が増え出した10年近く前、知見の田畑を守る組合を作ろうと、それまで掛け持ちしていた林業をやめて、本格的に農業を始めたという。

そんな中西さん、実は大の生きもの好き。
さまざまな生きものがいるのが、田んぼの自然な姿だと語る。「カエルやドジョウをはじめ、田んぼにはいろいろな生きものがいるべきなんです。だから水を抜く時期にも、必ず水生生物が生き残れる避難場所を作っています。田んぼのまわりに生い茂る雑草も、すっかりきれいにしてしまう必要はありません。草ぼうぼうではいけないと考えるのは人間だけです」。

一方、一般的な農法で取り組んでいる田んぼに比べて、『コウノトリ育む農法』で、お米を育てる苦労はなかなかのものだとか。中西さんは、田んぼそのものが生きものになるような感じだと語る。「試行錯誤の毎日です。大筋の決まった作り方はあるのですが、天気や気温の変化のほか、思いがけない要因でいつ何をしないといけないかということが変わってくる。肥料が足りているかどうかなども、一般的な稲作よりもこまめにチェックしないといけないんです」。

そんな農家の皆さんの努力で収穫されるのが「コウノトリ育むお米」。学校給食にも採用され、豊岡の子どもたちに親しまれている。「子どもの笑顔につながると思うと、米づくりがどんなに大変でも報われますよね。今も評判は良いのですが、まだまだおいしくできるんじゃないかな。改善を重ねて、さらに笑顔になるようなご飯を子どもたちに食べさせてあげたいです」と、決意を新たにする中西さん。

コウノトリが訪れる、農薬に頼らない田んぼから始まる「おいしい」物語。それは、豊岡の未来を明るく照らす、幸せなストーリーの始まりなのだろう。

「コウノトリ育むお米」は市内の飲食店でも楽しめる。豊岡を訪れる皆さんにぜひ味わっていただき、この味覚の中に、豊岡の豊かな自然を感じてもらいたい。

中西正博さん

地域の農業が衰退していく中で立ち上がり、知見集落にて、営農組合組合長を務める。「コウノトリ育む農法」の実践に取り組み、豊岡の農業を支えるべく奮闘中。

知見集落営農組合 豊岡市日高町知見エリアの圃場で日々活躍中

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