人々の毎日に娯楽と幸せを
いつの時も、芸能文化があった豊岡
明治34年(1901年)に出石(いずし)に開館した、近畿最古の芝居小屋「永楽館(えいらくかん)」。今や兵庫県指定重要有形文化財にして、豊岡市指定文化財に指定されるほどの建物だが、そのはじまりは、なんと個人の方が趣味で作ったものだというから興味深い。
開館当時から、歌舞伎をはじめ、剣劇、寄席などが催され、連日賑わっていたという永楽館。大正になると活動写真(映画)の興行も増え、さまざまな形で人々に娯楽を提供していたようだ。
昭和39年(1964年)に一度は閉館されたが、復活希望の声に応えて、平成20年(2008年)に改修を終えて再開。「伝統芸能は当たり前として、結婚式や同窓会、クラシックコンサートにDJパーティなど、ジャンル問わず、街の皆さんに愛用されていますよ」と、館長の赤浦毅(あかうらつよし)さん。
公演がない日は、木曜と年末年始を除けばいつでも見学可能。当時のレトロな看板や落書きが残った館内を、客席はもちろん、舞台や楽屋、舞台下の奈落まで余すことなく満喫できる。
赤浦毅さん
神戸のヴィンテージショップ勤務を経て、出石まちづくり公社に入社。永楽館館長に就任する。「永楽館大歌舞伎」をはじめ、さまざまなイベントに奮闘中。
豊岡市立出石永楽館 | 兵庫県豊岡市出石町柳17ー2
永楽館と同様に、一度は長い歴史に幕を閉じたものの、復活した映画館が豊岡市内にある。
昭和2年(1927年)に芝居小屋として開業した「豊岡劇場」通称「豊劇(とよげき)」。のちに映画館に姿を変え、長く人々に親しまれてきたが、平成24年(2012年)に惜しまれつつも閉館。しかし「映画館のないまちには住みたくない」という思いで立ち上がった地元の有志の皆さんの尽力で、2014年に再び開館。2022年9月からの短い休館を経て、2023年の春より運営を非営利法人に引き継ぎ本格再開の運びとなった。
豊岡復興建築群のひとつに選ばれているレトロな建物の佇まいから、不朽の名作や単館系と呼ばれる映画を上映しているのかと思いきや、支配人の田中亜衣子(たなかあいこ)さんによれば、メジャー作品も積極的に上映しているとのこと。
「子ども向けからシニア向けまで、さまざまな人に足を運んでもらえる作品選びを大切にしています。だいたい2、3週間で作品が変わるので、たくさんの人に来てもらえると嬉しいですね」と、田中さん。
楽しむことが文化として息づく街。楽しみの中に関わり合い、支え合いが生まれ、人のつながりも芽生えていく。
その拠点として、人々に愛される小さな芝居小屋が、映画館がある豊岡。そんな街はきっと、ずっと幸せな場所になる。
田中亜衣子さん
一市民として豊岡劇場復活を喜んでいたところ、パート募集を見つけ豊岡劇場に勤務。その後、支配人に。大好きな映画の仕事に、日々喜びを感じているという。
豊岡劇場 | 兵庫県豊岡市元町10−18