かばんを介した、時代の結び目と
人のつながりに幸せを感じて
江戸時代、柳や竹で編んだ箱「柳行李(やなぎごうり)」が生産されていたのを発端として、かばん文化が芽生えた豊岡。そのうねりは、やがて日本のかばん産業を牽引するほどの生産量を誇るほどに。
かつては、大量生産がさかんな時代もあったが、現在は、職人が一つひとつこだわりを持って作ったかばんを取り扱う店が増え、今もなお豊岡は「かばんのまち」として知られている。
そんな豊岡のかばん文化において、中心的な拠点となっているのが、豊岡駅からおよそ10分のところにある「カバンストリート」だ。
「かばんメーカーが、自社ブランドでショップを展開していたり、クリエイターが自身の作品を販売するショップを出していたり。ほかにも、かばんをクリーニングするショップや、かばん作りの学校などもあります。かばんの自動販売機もありますよ」。
カバンストリートを紹介してくれたのは、自らもMaison Def(メゾンデフ)というブランドを豊岡で立ち上げ、カバンストリートにショップを展開している下村浩平(しもむらこうへい)さん。「ここでしか出会えないもの」を大切に、糸で縫わないかばんなど、実験的な製法や素材にチャレンジしながら、実用性も追求した作品を生み出すクリエイターだ。
カバンストリートには、地元の人々はもちろん、「かばんのまち豊岡」の噂を聞きつけ、日本中からクリエイターが集まってくるという。下村さんもそのひとりだ。
「出身は福岡なのですが、豊岡という街の存在を知り、ぜひここでブランドを立ち上げたいと思ってやってきました。現在は、ショップを構えながら、クリエイターを育てるシェアアトリエも運営しています。平成17年(2005年)に誕生したカバンストリートですが、今でもかばん関連のお店が少しずつ増えています。ぜひ、たくさんの人に共に盛り上げてもらえると嬉しいですね」。
カバンストリートの、正式な名前は、宵田(よいだ)商店街。江戸時代には、現在の姿につながる街並みがすでに出来ていたという。そんな歴史のある商店街だが、先日、下村さんほか2名のかばんクリエイターが、この商店街をまとめる組合の新しい三役に選ばれたとか。
「長らくこの場所の文化を作り上げてきた先輩方から、作り手である私たちに、今後の商店街を託していただきました。代々ここで暮らしを営んできた皆さんから見れば、カバンストリートの十数年の歴史など、一瞬の出来事かもしれません。それでもこの場所の未来を描こうとする時に、新参者である私たちも温かく迎えてくれる。ここは、そんな“人”を大切にしてくれる街なんです」。
のんびりした時間が流れるカバンストリート。その魅力を下村さんはこう語る。
「魅力的なかばんとの出会いだけではなく、カバンを介して、人と人がつながっていく場でもあると思っています。オールドスタイルかもしれませんが、大きな街では味わえない人の温かみが、ここにはあると思っています」。
下村さんたちが紡ぎ出すカバンストリートの第二章、「シン・カバンストリート」が、人々にどんな幸せな時間を提供してくれるのか。ぜひ、訪れて味わってほしい。
下村浩平さん
バッグブランドMaison Def(メゾンデフ)を豊岡に設立。かばん職人育成を目的とした施設「アパートメント」も主宰し、後進の育成にも励んでいる。
Maison Def | 兵庫県豊岡市中央町18−1