脈々と受け継がれる「古式入湯作法」
「城崎温泉に訪れた際は、まず温泉寺に詣る」という風習がありました。かつては温泉寺でまず道智上人の霊前に参拝し、入湯の作法を教わり、湯杓を授かってはじめて城崎温泉の湯に浸かることができたのです。現在は参拝せずとも自由に入浴できますが、温泉寺では開湯以来何百年も続いたという入湯の作法「古式入湯作法」を今に伝えています。
「古式入湯作法」
①まず温泉寺本堂に座する道智上人の霊前に参拝し、湯杓を授かります。この湯杓は「道智上人の御手」とされており、入湯中にも湯壺につけたりせずに丁重に扱うことが大切です。
②湯壺に至って偈(げ)を唱えます。
沐浴身體(もくよくしんたい) 當願衆生(とうがんしゅじょう)
内外清浄(ないげしょうじょう) 身心無垢(しんじんむく)
③温泉開祖道智上人・本尊十一面観世音菩薩・温泉守護薬師如来に真言を唱えます。
南無道智上人(なむどうちしょうにん) 南無観世音菩薩(なむかんぜおんぼさつ)
南無薬師如来(なむやくしにょらい)※各三遍繰り返す
④湯杓をすすいで湯杓の湯を頂き、口をすすいで頭より全身に湯を浴びた後、心静かに入湯します。
⑤心静かに入湯し心身の安祥を祈ります。
⑥入湯後は、道智上人の霊前に湯杓を再び奉納し、感謝を伝えます。
※尚、現在は衛生上の問題等により湯壷の湯を口にする事は奨励しません。また、湯杓も入湯後は城崎温泉入湯記念に持ち帰ってもいいとされています。
つまり、現在はデジタル化されている外湯入浴券の起源は温泉寺で授かる湯杓だった、というわけです。関西の有名観光地のひとつに数えられる城崎温泉も、昔は本格的な湯治場でした。来湯客が温泉と向き合う姿勢も今とは異なる面があり、「古式入湯作法」は温泉の効力とありがたさを湯に浸かる前にきちんと認識するためのものだったのかもしれません。病やケガを治したい人々にとって城崎温泉の湯は尊いものだからこそ直に手では触らず、湯杓を使って道智上人に汲んでいただき、真言を唱えて湯に浸かり、治癒を願っていたのでしょう。温泉寺の薬師堂には、かつての入湯客が湯治後に治癒・回復して不要になったために奉納した、杖や手下駄が保存されています。
御開帳は33年に一度!秘仏「十一面観音立像」
温泉寺の本尊は、道智上人が温泉寺を開創するきっかけとなった観音像「十一面観音立像」です。2メートルを超える桧の一木彫で、国の重要文化財に指定されています。奈良と鎌倉の長谷寺の観音像と同木同作。また、木の最も先の部分を使って造られた「十一面観音立像」によって守られている場所であることから、城崎(きのさき=木の先)という地名にもなったと言われています(地名の由来には諸説あります)。また、この「十一面観音立像」が温泉寺に祀られるに至るまでにはとてもドラマチックな物語があり、温泉寺に受け継がれる「温泉寺縁起図」に書き記されています。この、城崎温泉と観音像の運命的な出合いについてはぜひ拝観時に尋ねてみてください。
「十一面観音立像」については、普段は厨子の中に安置されその姿を見ることは叶いませんが、毎年4月23・24日に行われる開山忌(温泉まつり)には厨子が開扉され、観音像の一部のみが公開されます。そして、観音像の全身を拝することが可能になるのは、なんと33年ごと!33年ごとに行われるご開帳では、観音像は厨子の中から本堂へと遷座され、1000日間に渡るご開帳期間中はその貴重な姿を一目見るため多くの人が訪れます。なお、次のご開帳は2051年に予定されています。
ちなみにこの「十一面観音立像」は「一願成就」の観音様で、ひとつだけ願いごとをかなえてくれるというウワサ……。ぜひとっておきの願い事を用意してお参りしてください。