■ライタープロフィール
まつもとよしこ
旅モノ雑誌の編集・ライター歴20年。 地域おこし協力隊として2016年に城崎町へ移住し、今は温泉街のとある旅館の若女将とライターの二足の草鞋を履いて暮らしています。城崎温泉の「湯のある暮らし」がとっても気に入っていてお風呂は毎日外湯派。食べること、健やかな暮らしに興味があり、山陰地方(主に島根県)のうつわを中心とした手仕事の品をこよなく愛しています。
宿泊の予約をしないとなかなか足を踏み入れることがない「旅館」は、ちょっと特別感のある場所。旅館の空間が「日常(家)」になって6年ほど経つ私ですが、他の旅館にうかがうとなるとやっぱり、ちょっとワクワク・うきうきします。
最近では、宿泊客以外でもレストランを利用でき、ランチを気軽に楽しむことが出来る旅館が増えてきました。
今日は、私も記念日やちょっとはりきった日に出かけて観光客にまぎれてちょっとした旅気分を楽しむ、お気に入りの「宿ランチ」を紹介しますね。(2025.4.16時点)
敷地内に5万坪の広大な森林を持ち、老舗旅館「西村屋」さんが運営する「西村屋ホテル招月庭」さん。一歩足を踏み入れただけで非日常感たっぷりのロビーを抜け、専用エレベーターに乗って「レストランRicca」へ。
ガラス張りの店内からは広大な森を望み、城崎温泉の町の賑わいが嘘のような静謐さが宿るレストランは、お祝いごとや記念日など地元の人の中にも「特別な思い出」のある人が多く、自身も結婚式代わりの親族の食事会でお世話になりとっても温かくおもてなしをしていただいた思い出のお店です。
シェフ・谷垣さんは大阪の製菓専門学校を卒業後、東京の有名店などで料理人としての修行を積み、2011年に帰郷。「レストランRicca」のグランドオープン以来、お店を支えていらっしゃいます。地元出身者ならではの視点やネットワークで、豊岡を中心に但馬地域の生産者さんを自ら訪ねて集める旬の素材を、フレンチやイタリアンの技法で「Ricca」ならではの一皿へと仕上げます。
私のイチ押しはメイン料理が3品から選べる「ベーシックコース」の「但馬牛100%粗挽きハンバーグステーキ」。一切れ口に運び、噛みしめた瞬間口いっぱいに広がるその肉々しい味わいは、もう、言葉を失くして思わずうっとり・・・。それぞれ違うメイン料理を選んで「シェアしようね」って言ったはずなのに「これはひとりじめしてしまいたい・・・」と思ってしまう美味しさ。
また、せっかくの機会ですからここはひとつメイン料理を但馬牛熟成肉にグレードアップするのもおススメ。時間をかけ、ぎゅぅっと味わいが濃縮された熟成牛の美味しさは格別です。
旬の野菜をふんだんに使い、ちょっとした付け合わせまですべて手作りされる細やかで手を抜かない調理はもちろん、絶妙なタイミングで次のお料理を運んでくださったりお声がけしてくださったり、洗練された気配りに溢れるサービス。コースのはじまりから最後まで、特別感いっぱいの「幸福」かつ「口福」なひとときが続き、旅の思い出がさらによきものになること間違いなし、です。
レストランRicca(西村屋ホテル招月庭)
●住 所:兵庫県豊岡市城崎町湯島1016-2(MAP)
●電話番号:0796-32-4895
●営業時間:11:30~14:30(L.O.13:00)※前日17時までに要予約
●営 業 日:不定休(招月庭休館に準じる)、水~月(ランチは火曜定休)
●メニュー:ベーシックランチ 4,950円~
わが家から徒歩1分の場所にある旅館「泉翠」さん。建築家・堀部安嗣氏が設計を手掛けた2020年のリニューアル後、金・土・日曜日のランチタイムのみ「レストランSiki」を宿泊客以外も利用できるようになりました。
漆喰や無垢材のフローリング、大きな窓から射しこむ光を受け止める柔らかな曲線を描いたヴォールト天井など上質ながら温かみのある空間で、メインの通りから一本奥に入っているからか長閑な雰囲気。
私は「あぁ、ちょっと自分にご褒美あげたい・・・」というモードの時にはこちらへ。また、美食家も多い城崎マダムにも人気です。
ランチは「宿のお昼ご飯」と「宿のパスタ」の2種類。どちらも甲乙つけがたく、ふたりで行くならひとつずつ選んでシェアすることをおススメします。
「宿のお昼ご飯」は、メイン料理に6種類の小さなおかずが付くのですが、これが目に舌にとっても楽しい!山菜や野菜など、地元産の旬の素材を丁寧に仕込む、素材に寄り添った肩ひじ張らない献立で、ほっこりと、思わず顔がにっこりほころぶようなしみじみとした美味しさ。
「宿のパスタ」は初めてうかがった時こそ「なぜ和食料理人がパスタランチを?!」と思いましたが、和食料理人ならではのセンスを感じる素材の組み合わせや味付けが絶妙で、今では「今回のパスタのお味やいかに?!」と、料理長が繰り出すパスタの世界に毎回ワクワクしながら料理が運ばれてくるのを待っています。
実家も宿泊業を営み、小さな頃から料理が身近だった経験から自身も料理人を志した三原料理長。日本中のフーディーが集う有名旅館での調理研修に参加するなどして技を磨いた、「THE 旅館料理」にとらわれない若いセンスを2種類のランチで存分に楽しんでください。
Siki(城崎温泉 泉翠)
●住 所:兵庫県豊岡市城崎町湯島753(MAP)
●電話番号:0796-32-3355
●営業時間:11:30~14:30(L.O.14:00)※前日までに要予約
●営 業 日:金曜日・土曜日・日曜日
●メニュー:宿のお昼ご飯 1,800円、宿のパスタ 1,300円
温泉街のちょうど真ん中。一の湯を望む場所に立ち、建屋が登録有形文化財に指定される旅館「小林屋」さん。2023年、約2年半をかけた大規模改修の完成と同時に誕生したレストラン「CYAN -誌庵-」が、リニューアルオープンと同時に宿泊客以外の利用も可能になりました。
SUPPOSE DESIGN OFFICE 吉田愛氏が設計を手掛けた空間は、まさに「陰翳礼讃」を思わせる美しい佇まい。暖簾をくぐればメインの通りに面しているとは思えない静けさに包まれます。
奥庭を望むダイニングでいただくのは、元々宿泊客のコース料理の〆として供されていた小林屋さんのシグニチャーとも言える「釜めし」を、地元産の旬の素材を組み合わせて更にブラッシュアップさせた「極みの釜めし」。コロナ渦中、旅館の営業もままならなかった頃にこの「極みの釜めし」をメインディッシュに据えた会席ランチコースを提供するポップアップレストランを豊岡市内に期間限定出店したところたちまち話題になりました。
献立は月替わり。牛肉や豚肉、鶏肉を使う肉系のものか、魚や野菜、旬の食材を使ったものの2種類から選べて、八寸と蓋もの、そして釜めしをひつまぶし風に楽しめるよう特製出汁が入った土瓶付き。鳥取県出身で、但馬のみならず山陰地方の素材や食文化にも精通し、郷土料理の手法をベースに会席料理を再構築した「あたらしい郷土料理」を提案する山内料理長の技が光り、どの料理にも山陰地方の里海の幸がぎゅぎゅぎゅっと詰め込まれています。何より、卓上焜炉の火が消えてからはやる心を抑えて蒸らすために5分待ち「いざ!」と蓋を開けた時にふわりとあがる芳しき湯気・・・その瞬間の多幸感ったらありません。
ちなみに、最も要注意なのが「出汁をかける暇もなく釜めしを食べ尽くしてしまう」こと。ついつい箸が進んでしまうのですが、どうか、出汁をかけたもうひとつの釜めしの味わいを楽しみ忘れるなんてことがございませんように!
「極みの釜めし」は土曜日・日曜日限定。金曜日と月曜日のランチタイムは、SUPPOSE DESIGN OFFICEの社員食堂メニューを小林屋流にアレンジした「社食堂カレー」が楽しめます。こちらもぜひ♪
CYAN -誌庵- (城崎温泉 小林屋)
●住 所:兵庫県豊岡市城崎町369(MAP)
●電話番号:0796-32-2424
●営業時間:11:30~15:00(L.O.14:30)
●営 業 日:金曜・土曜・日曜・月曜日 ※釜めしの提供は土日のみ
●メニュー:極みの釜めし 1,800円、社食堂カレー 1,200円