その優雅な姿を見上げる幸せな時間の中で、
豊かな自然に想いを馳せて
「コウノトリと暮らす町」。
その言葉が語る通り、豊岡市内、特に田園地帯や川沿いを車で走っていると、華麗に飛翔するその姿にふと出会うことがある。
かつてコウノトリは、日本でその姿を見ることができなくなってしまった鳥だった。しかし、半世紀以上にわたり、コウノトリも住める豊かな環境づくりを推進してきたことが実を結び、今や470羽以上(2024年7月31日現在)のコウノトリが豊岡をはじめとする日本の空のもと暮らしているという。
その取り組みを垣間見ることができるのが、市内の田園地帯で目にする、頭にお皿を乗せた電柱のような不思議な形をしたもの。高いところに巣をつくる習性のあるコウノトリのために設置された「人工巣塔(すとう)」だ。
「コウノトリは不思議な鳥ですね。その眼差しには、まるで吸い込まれるような魅力があると思っています」。そう語るのは、兵庫県立コウノトリの郷公園内にある豊岡市立コウノトリ文化館の自然解説員、西垣由佳子(にしがきゆかこ)さん。
同館は、コウノトリを含めた豊岡の生態系を広く見つめ、環境について考える施設。
展示のほかに、飼育しているコウノトリを目の前で見ることができる人気のスポットだ。
ここで羽を大きく広げたコウノトリを目の前にすると、その優雅なさまに、さらに魅了されてしまう人も多いという。
コウノトリの野生復帰に向けて、豊岡ではさまざまなことに取り組んできた。
たとえば、市内を流れる円山川や出石川の治水事業にあたっては、自然再生計画に基づいて、コウノトリの餌場となる湿地や多様な河岸環境の保全・再生が行われている。
同様に、農業環境の改善にも力を尽くしている。農薬や化学肥料を極力抑えた、安全で美味しいお米づくりをすることによって、多様な生きものが田んぼに再び姿を見せるようになり、コウノトリの餌を増やすことに貢献してきた。
そうやって誕生した「コウノトリ育む農法」でつくったお米は、学校給食に採用されているほか、市内のレストランや宿泊施設でも取り入れられ始めており、西垣さんもオススメの逸品だという。
「とてもおいしいお米なので、ぜひ、市内の飲食店で味わっていただければ。食べていただくことが、コウノトリが豊かな環境の中で生きていくことの応援につながります。見て、体験して、食べて。
豊岡を訪れた皆さんが、さまざまなカタチで、一歩踏み込んだ自然の中にある出来事を持ち帰ってくれれば嬉しいですね」
一方、赤ちゃんを運んでくる「幸運の鳥」としても有名なコウノトリ。
コウノトリ文化館から、車で5分程度のところには、古くからコウノトリにまつわる伝説が伝わる「久々比(くくひ)神社」がある。
多くの人が子宝や安産を願って訪れ、境内には、願いが書かれた絵馬がたくさん並ぶ。
兵庫県立コウノトリの郷公園の入り口近くには、「ここから幸せ発信」と書かれたポストがある。専用の袋をもらい、切手を貼った手紙を入れてここから投函すると、特別なコウノトリの消印が押され、宛先に届くという。
このポストから、家族や仲間に幸せのおすそ分けをしてみるのもおすすめだ。
西垣由佳子さん
自然が好きなお子さんの影響で、自身も自然の奥深さに夢中に。現在、豊岡市立コウノトリ文化館にて自然解説員を務める。
豊岡市立コウノトリ文化館 | 兵庫県豊岡市祥雲寺127