工芸品を通して豊岡に流れてきた時間に触れる、
幸せな出会い
柳行李(やなぎこうり)。かつては、服をしまったり、旅行の時に荷物をまとめたりするのに広く活用されていた箱の名前である。「コリヤナギ」という柳などで編まれており、しっかりとした作りながら、通気の良さを保てるのが特徴だ。そして、言わずもがな豊岡のかばん文化の源流でもある。
現在、柳行李を作れる伝統工芸士は、日本にたったひとりしかいない。出石(いずし)の城下町に工房を構える「たくみ工芸」の寺内卓己(てらうちたくみ)さんだ。
「今は行李から形を変えて、かばんの製作を行なうことが多いですね。なかでも底が平らな「信玄篭」や、かつて出石の幼稚園で愛用されていた「豆バスケット」が人気です」と寺内さん。2世代で柳行李のかばんを愛用している方もいるようで、「母から譲り受けて……」と、細部の補修に訪れる方も少なくないという。
寺内さんは、柳を畑で育てるところから自身で行なっているが、ここ数年、変化があるという。
「最近の気象変動で、柳の育ち方が今までと違うんですよ。そこを見極める目も身につけなければいけません。長いこと柳行李を作っていますが、伝統を残すために学ばなければいけないことは、まだまだありますね」。
寺内卓己さん
「たくみ工芸」を営む、現時点において日本でただひとりの柳行李伝統工芸士。柳の栽培から、行李づくりまですべて担う、柳行李のスペシャリスト。
たくみ工芸 | 兵庫県豊岡市出石町魚屋99
出石焼(いずしやき)は、透き通るような白さが特徴の白磁器。寛政11年(1799年)、極めて白色度の高い柿谷陶石(かきたにとうせき)が近隣の山で発見されたことから始まったとされている。
「偶然性に頼ることなく、緻密なカタチ、デザイン、色を計算したうえで焼き上げることを大切にしています」と、モットーを語ってくれたのは、出石に窯を構える「永澤兄弟(けいてい)製陶所」の5代目、永澤仁(ながさわひとし)さん。
自然から与えられた稀有な素材と、自身の求める表現が、境目なくひとつのカタチとして導かれていくところに、陶芸の魅力を感じているという。
「伝統を守るだけでは、伝承に過ぎません。後世に出石焼をどういうカタチで残していくか。ということはもちろん意識しますが、時代時代の中で変化していく出石焼を多くの方に楽しんでいただければ」と永澤さん。
現在、出石には4つの製陶所があり、お皿や湯呑みなどの絵付けの体験も行なっている。
永澤仁さん
永澤兄弟(けいてい)製陶所5代目。伝統を守りつつ、新たな出石焼を模索し続けている。
有限会社永澤兄弟製陶所 | 兵庫県豊岡市出石町内町92−1
艶めく色彩と、柔らかな手触りで出会うものを魅了する「麦わら細工」。
英語で「STRAW CRAFT」と呼ばれ、ここ豊岡で、およそ300年の歴史を持つ、兵庫県伝統工芸品、豊岡市の無形文化財にも指定されている工芸品だ。
「麦わら細工というと、麦わら帽子などを連想される方が多いようで。こんな鮮やかな工芸品なのか!とビックリされる方が多いですよ」。そう語るのは、城崎温泉に工房を構える「かみや民藝店」の3代目、神谷俊彰(かみやとしあき)さん。
「染色した麦わらは、光のあたり方次第で、豊かな模様を浮かび上がらせます。私もこの、他には変えられない美しさに魅了されて、2代目である父の跡を継ぐこと決めたんです」と神谷さんは続けた。
城崎温泉には「城崎麦わら細工伝承館」もあり、現代の職人による作品をはじめ、古くは明治の職人によるものまで展示されている。
かみや民藝店、城崎麦わら細工伝承館、ともに、手軽に作れるブローチなどの麦わら細工体験を行なっている。ぜひ、自分だけの作品作りに興じてみては。
神谷俊彰さん
城崎に、麦わら細工の工房と店舗を構える「かみや民藝店」の3代目。伝統的な技法にくわえ、新たな染料や素材にも挑戦を続けるクリエイター。
かみや民藝店 | 兵庫県豊岡市城崎町湯島391 木屋町小路 テナントB